dobochon’s diary

宮原清の夢日記

「築地侍」



爽やかな日差しの中。
昼下がりの築地は昼食を済ませたばかりの親父達で溢れかえっていた。


私は路肩に車を止めて携帯で打ち合わせの段取りをしながら、
何気なく向かいの歩道を歩く彼らに目をやった。
連中は「本日の日替わりランチ」にご満悦といった体で
それぞれの仕事場に戻るべく、ゆっくりゆっくり歩いているのだが、
何か奇妙な印象を与えるのだった。


しばらく見ていてその原因に気がついた。
なんと、どいつもこいつも、
背広の上着を右肩に引っ掛けているのである。


この陽気だ。上着のひとつも脱ぎたくなろう。
腹が一杯なので、ベルトの穴を緩めたくなる気持ちも分かる。
しかし何故、揃いも揃って
「右手で上着の襟をつかんで右肩に肩掛け」の出で立ちなのか?
その上、誰もが同じようにふんぞり返った歩き方で、
時折、眩しそうに空など見上げている。
もちろん連中はお互いに自分が前後の男とシンクロしている事など
気付いてもいないだろう。


本願寺の裏手のこの通りは、
往年の銀座界隈を思わせる柳の街路樹がまだ残っており、
境内の渋い色調の外壁と相まって、
ちょっと時代がかった雰囲気を醸し出している。
そのせいもあってか、
不意に・・・
その親父達が、古い時代劇に出てくる三文役者もどきに見えた。
まるで映画のオーディションを観ているようだった。
演じるシーンの課題は、
「無事に登城を終え、蕎麦を一杯やって長屋に戻る冴えない武士」
である。


そして今、まさに楊枝をくわえた大河内伝次郎
面倒くさそうに左右を交互に見ながら下手な見栄を切り
私の車の方に向かって通りを横切ってきた。



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