dobochon’s diary

宮原清の夢日記

「野火止用水赤提灯」


 俺が子供の頃の野火止用水といえば、ほとんどドブ川だった。
玉川上水から分水され、かつてはこのあたりの畑を潤していた
はずの用水も、当時は下水も同然だったのだ。道路と畑の間の
鬱蒼とした茂みの奥で陽にあたることもなく、流れているのか
流れていないのかわからないような水は異臭を放っていた。
それでも俺たちは幅2メートルにも満たないその川で、土手に
穴を掘ったりして遊んでいた。


 野火止用水には、違法に架けられたにちがいない橋がいくつも
あった。橋といっても、丸木を渡した上に板を乱雑に貼っただけの
粗末な橋。そんな橋のひとつに、橋からさらに川にせり出して
建てられたバラックがあり、それは夜になると赤提灯がともるの
だった。たしかおでんのようなものを出していたと思う。
 あんな悪臭のするところでよく飲み食いできるものだ。第一、
水道もないところでどうやって料理をしているのか。それは子供心に
不思議で仕方なかった。
 しかし雑草の茂み越しに、水面に映る赤提灯の仄かな光には、
なぜか強く惹かれるものがあった。自分は大人になったらこういう
ところでお酒を飲むに違いないと感じていた。


 その後野火止用水はすっかり綺麗になり、今では錦鯉などが泳ぐ姿が
見られるようになった。
 先日、赤提灯があった場所を通りかかってみたら、当然ながら橋は
立派なものに架け変わっていて、それを渡った先には小ぎれいな割烹
料理屋ができていた。



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