dobochon’s diary

宮原清の夢日記

「レジの女」


そのスーパーの女余市は、ただならぬ関係だった。

始まりはこうだ。
余市は、今のアパートに引っ越してから日曜ごとに近辺の商店街をあちこち回って店の品定めをしていたが、ある時ふらっと入った隣町の小さなスーパーで、たまたま並んだレジを担当していたその女と出会う。
その店では今時珍しくレジ係り自らが買った商品をレジ袋に詰めてくれるのだが、その女はレジ袋への収納の達人だったのである。
買い物かごに入れられた千差万別の形と重さをした商品群の特性を瞬時にして見定め、分類しながらテキパキと袋に入れてゆく。しかもレジを打ちながらである。物によっては薄いビニール袋に再梱包しつつ、もちろん固い商品と柔らかい商品との関係にも神経を配りつつ、最終的に複数に分ける袋の重量バランスも見事だ。時折、素早く袋の四辺を立たせて角をつくり、埋めるべき空間を形作りながら迷うことなくそれを埋めていく。数種類あるレジ袋の容量を完全に三次元として把握しているからこそできる技。完成した袋詰めは見事な立方形で、車に積んで家まで運んでも全く崩れることながなかった。紛れもなくプロ。

以来、余市は日曜ごとにその店へ買い物をしに行くようになり、必ずその女のいるレジに並ぶようになった。そしてその都度女の技にうっとりしていたが、ある時あまりの見事さについ「流石。」と声が出てしまった。その一言でレジの女の目には光りが宿り、その仕事振りは更に鋭さとスピードを増すことになったのである。
それ以降、レジでは真剣勝負のような空気が流れるようになった。梱包する女の手元を見つめる余市の視線。それを痛いほど感じているはずの女の手業のキレ。やがて余市は買い物カゴに入れる商品の順番を操作するようになった。一番底に入れたくなる牛乳パック4本をあえて一番上に載せてレジに望む。それらはレジ袋の一番下に収まるべきものだからだ。ソレを見た女の表情の変化を余市は見逃さなかった。向こうも余市をプロとして認めたのだ。今では店に入った瞬間からすでに火花が散る想いである。

そんなレジの女が、あろうことか今日はこう言ったのである。
「あら、納豆が入らない。どうしても」