「遅くまでお仕事、大変ね」
初対面だというのに、女は臆面もなく話しかけてきた。
今日は検問の多い日だった。サミットが近いかららしい。
現場が終わっての帰り道、田無のあたりを過ぎた頃には
とうに12時をまわっていたが、まだ検問はあちこちで
行われていた。
それを横目で見ながら、
俺は買い換えたばかりの会社の車にまだ身体がなじまず、
シートの上でやたらと腰のすわりを変えながら
バックミラーの角度をいじくってみたり、
携帯を開けたり閉めたりして、
どうにも落ち着かないまま車を走らせていた。
「気をつけて運転して頂戴」
とマキ子。
乗せたくて乗せたわけじゃない。
「はいはい、わかりました」
と答えるとマキ子は少しムッとした様子で
「何? その言い方」
と言い返した。
俺が返す文句を考えているうちに、
「そこを右よ、右。
あら、通り過ぎちゃったじゃない。駄目ね、
いいわ。じゃ、次を右。言うとおりにしてね」
といった具合に
マキ子の我が儘ぶりは次第にエスカレートしていくのだった。
俺はあえて次の交差点も右折せずに直進した。
「何考えてるの? 右っていったじゃない!
右っていうのはね、お・は・しを持つ方」
「うるさいな、俺はこっちの道を行きたいんだ!」
俺はついにスイッチを切ってしまった。
まったく最近のカーナビというやつは・・・