第2理科室が入っている校舎は、
通常の教室からは少し離れた敷地の片隅に忘れ去られたように建っている。
そこは、穴だらけのトタン屋根のついた渡り廊下によって
かろうじて学校生活と繋がってはいたが、
たとえ準備室から漂ってくるホルマリンやアルコールの饐えた匂いが無かったとしても
いかにも非日常的な空気を漂わせていた。
俺はその理科室の前庭に放置された
小さなコンクリートの池に湧いたミジンコたちが
水中でくるくると泳ぎ回るのを、
放課後の日溜まりのなかで眺めるのが好きだった。
夏のはじめのある日に、いつものようにミジンコを眺めていると、
池の先で勢いを無くしはじめた茂みの中に
四角い穴があるのに気づいた。
秘め事の予感がした。