dobochon’s diary

宮原清の夢日記

「エー坊・その後」


エー坊は心を痛めていた。

「肉体に痛みを感じない男」として売り出そうとしたのだが、
テレビ局での大失態でその夢もあっけなく終わってしまった。
一人きりで、部屋の窓から外を眺める毎日。

そしていつものように結露した曇りガラスに指を這わせていたエー坊。
ふとした力加減で、ガラスと指の腹が擦れて
素敵な音が出る事に気付いた。

さらに指の角度と擦るスピードを工夫すると、
音階すら出せる事がわかった。
最初は上がったり下がったりしているだけだったが、
そのうちにメロディを奏でられるようになり
やがてスタッカートやスーラといったテクニックを手に入れ、
いつしかエー坊は夢中になって演奏していたのである。

陽が落ちて暗くなった街に、ガラス音楽が流れ出ている。
窓いっぱいにエー坊のシルエットが、
恍惚の影絵となって踊った。