dobochon’s diary

宮原清の夢日記

「アゲハ蝶」 Papilio xuthus .




ベランダにみかんの鉢植がある。
十数年前に家族の誰かがタネを土に埋めたら芽が出て
水をやっているうちにいつの間にか胸丈ほどの大きさになった。

何という種類なのかはもうわからない。
これまで一度も実を付けたことがないから。
でも柑橘類であることは確かだ。
夏の始めに必ずアゲハ蝶の幼虫が姿を現すから。


放っておくと、どんどん葉が食べられてしまうので
見つけたら悪いが始末させてもらう。
卵から孵ったばかりの幼虫は、
小さいけれど黒くて葉の上にいることが多く
比較的見つけやすい。
だが少し大きくなると、緑色に姿を変えて葉の裏に身を隠すようになる。
そうなると俄然見わけにくい。
それでもかじられた葉のあたりを丹念に裏返すと・・・
これも見つけ次第始末させてもらう。


ところがどうしても見つからない奴がいる。
木の周りに結構な大きさの糞が落ちているので、
それなりに育っているはずだが、なぜか見つからないのである。
そしてある時ふいに、
丸々と太って堂々と幹に止まっている姿に出くわす。


割り箸で摘むとオレンジ色の臭角を伸ばし、強烈な匂いを放って抵抗しながら
全力で枝にしがみつく。
わかったわかった、これまで俺の目を欺いてきた君の勝ちだ。
こいつはもうすぐこの木で蛹になるだろう。


そんなある日、微妙なサイズの幼虫を見つけた。
負けを認めるにはまだ中途半端な奴に思えた。
どうしようか迷ったのだが
やはり立ち退いてもらうことにした。
いつものように割り箸でつまんで、
みかんの木から離れたベランダのヘリに持って行った。
この日照りだし、そのままへたばるか、きっと鳥が見つける。


それから数日して、みかんの木の傍らに、
アゲハ蝶が奇妙な死骸となって落ちていた。
羽根が開き切らずに丸まっていて、胸から下が無いのだった。


そこで先日の幼虫を思い出した。
育ちきっていなかった幼虫が
みかんの木に戻れないことを悟り、
その場で日陰に移動して急いで蛹に変態し、
無理に羽化した結果こうなってしまったのではないか。
瞬時にそんな想像をした。


そんな訳はない。
ないけどそう思えてならなかった。

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